photo
地蔵菩薩立像 伝香寺(でんこうじ)
鎌倉時(1228) 木造彩色 重文

<大地の神と地蔵さま>

お地蔵さんといえば、人々が親しんで来た路傍の石地蔵を連想するが、地蔵菩薩が日本で造像されたのは天平時代、東大寺講堂本尊の脇侍として虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)と一対に安置されたのが初めである。
虚空蔵が天空・宇宙に充満する福徳・知恵を蔵した諸願成就の仏であるに対し、地蔵とは、「大地に豊穣を産み諸宝(しょほう)を蔵す」という言葉から地と蔵を取った大地豊穣の仏で、虚空蔵と地蔵は天と地の仏であった。
だが日本古来の信仰では、大地豊穣の神が出現される依代(よりしろ)は磐座(いわくら)で、この大地の神の磐座に地蔵を合体したのが石の地蔵の起原で、古い信仰の神々と係わり深い仏であった。
伝香寺(でんこうじ)の地蔵尊は木造の美作だが、胎内の願文には、春日大社第三殿、天児屋根命(あめのこやねのみこと)の本地仏(ほんじぶつ)とある。
なお本堂の脇には奈良三名椿(さんめいちん)の一つ、花びらの一枚づつ散る珍しい「散り椿」がある

写真・解説/小川光三(飛鳥園)