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地蔵菩薩立像 中村区・安産寺
平安時代前期 一木造 重文

<川を流れてきた地蔵さま>

室生村(むろうむら)中村区の安産寺には平安前期のまことに見事な地蔵尊が安置されています。
このように立派な仏像がここに祀られるようになったのは、言い伝えによりますと、「あるとき大水があって、集落の下を流れる宇陀(うだ)川にこの地蔵尊が流れ着かれた。そこで村人たちが大切に救い上げ、集落へと運び上げて来ると突然地蔵さまが動かなくなられたので、そこにお堂を建ててお祀りした」とあります。 しかし、川を流れてきた像にしては傷みも少なく、また流れるような衣紋(えもん)の様式は、宇陀川上流の室生川をさかのぼった室生寺金堂の本尊、釈迦如来像にそっくりで、もとはその脇侍であったと考えられています。
それがなぜこの地に移されたのかは分かりませんが、川を流れてきたという伝承は、漣波式(れんぱしき)と呼ばれる水の流れのように美しい衣紋からの連想なのかもしれません。

写真・解説/小川光三(飛鳥園)